はい、と芹が、ティーカップをわたしの方へ滑らせた。

香りから察するにハーブティだ。

花の香りもほのかに混ざっている。


「……ありがとうございます」


受け取って、ひと口喉に通して、丸窓の外に目を向けると、少し離れたところに様々な花が咲き誇っているのが見えた。



「……庭」

「ああ、うん。うち、庭があるの。あとで案内するよ」

「いや、それは申し訳ない、です」

「花、好き?」

「……そうでもないです。でも、きれいだなあ、とかは思います」

「好きになったらいいよ」

「じゃあ、なります」

「じゃあ、で、なれるものなんだ。……てか、同い年だったよね、おれとすいちゃん」


頷く。

芹はこちらには目を向けず、フォークでサラダから器用に豆だけを脇によけながら、「敬語じゃなくていいし、名前も呼び捨てでいいよ」と言った。

言葉は盾だから、敬語を使うことではっきりとした線引きをしていたつもりで、年齢はあまり関係なかった。


「丁寧に接してくれなくてもいい」

「……でも」

「でも、じゃなくて」

「………」

「すいちゃんは、しなくていいよって言われるより、するなって言われた方が、上手に言うこと聞ける女?」


顔をあげないままの芹に、尋ねられて口ごもる。

乱暴な言葉は使わないけれど、女のことは、女の子ではなく、女、と口にする。疑問符には、傲慢さが微かに滲んでいる。


昨日、助けてくれた男の弟だ。

だけど、全く警戒していないわけではない。

そういう警戒心を、相手に嫌悪感を抱かれない程度に、出していたつもりだったけれど、やめろと言われればそれまでだ。