丁寧にセットされた黒髪からのぞく左耳の軟骨では、ひとつ、金色のリングピアスが控えめに光っている。
同じピアスが、その男の妹の右耳の軟骨でも、今頃、髪に隠れて光っているだろう。
「区域外、か。何処の誰かな、“ぶち”殺されたいのは」
いつもならば絶対にあり得ない言葉遣いをして、男は、頬杖をつくのをやめ、部屋全体を見渡した。
機嫌が悪いなんてものでは、ない。
その穏やかな微笑みから透けているのは、怒り、ただそれだけである。
「いや、何よりも先にすることがあるね」
部屋にいる者たちはみな慣れているものの、さすがに、ぞっと背筋が凍った。
「一刻も早く、鴉を篭に戻さないと」
すでに、男の唯一の地雷は、誰かによって踏まれた後だ。爆発は、決して免れない。
男は、また窓の方へ視線を戻し、自身の左耳のピアスに触れる。
窓の外では、桜の花びらが闇のなかで激しく舞っていた。