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「──日彗、聞いてる?」
桜のシフォンケーキにフォークを突き立てたまま、これは月臣の口に合わない、もう少し甘さが控えめじゃないと、なんて頭の半分だけを考え事につかっていたら、テーブルの向かい側に座る女の子が、ぷくりと頬を膨らませた。
残りの半分ではちゃんと聞いていたけれど、おそらく、相槌に誠意が全然足りていなかった。
そういうときは、聞いてなかったことにしたほうがいい。
「ごめん、 芽蕗ちゃん。ぼんやりしちゃってた」
「でたよ、日彗のおっとりタイム」
ご不満な様子の芽蕗の隣で、想葉が呆れた顔をする。
ちがうー、と、ノリを合わせて口を尖らせる。
芽蕗も想葉も高校の友人で、いまは、駅裏の喫茶店で放課後のティータイムの最中である。