「……俺が、出ます」
ソファにじっと座ったまま、今まで一度も口を開かなかった長身の男がすっと立ち上がり、固定電話の方へ歩いて行った。
───鳥篭、総長補佐、月嶋 憬
───コード、“Robin”
無慈悲、冷酷、暴力的───そういった言葉を当てはめるには、その男は少し清潔すぎた。
では、温厚、寛容、融和的かと言われれば、そうでもなく、ただ、“義理堅い”ことは、確かだった。
端正な顔立ちをしている。歩けば、ゆるくパーマがかかったブラウンの髪が微かに揺れる。きれいな瞳には光がなく、男のポーカーフェイスが崩れるところを見た者は、ほとんどいない。
男が三コール目で、受話器をとる。
電話番号の表示はない。相手は抜かりなく非通知でかけてきていた。
部屋全体に聞こえるように、スピーカーのボタンを押す。
「……だれだ」
沈黙を選ばず、先手を打ったのは、ただの男の動揺だった。無論、顔や声にはほとんど出ないので、この部屋で気づく者はいない。
部屋にいる男たちの全意識が受話器に向かっている。