「天清からの伝言だ。幹部以外は、事務所から去ること。今日は頼めることもねえから解散って話だ」



大人しくなった鳥たちは、男の言葉を受けて頷き、深々と彼に向かって礼をした。

それから、すぐに連れ立って建物を出ていく。


フロントは、あっという間に男一人となる。

静まり返ったその空間で、彼は、おもむろに口笛を吹いた後、また、階段をゆっくりと上っていった。




三階の一番右端に戻る途中、青ざめた者とすれ違う。

すれ違った者は、首は繋がっているが、ほとんど死にかけているような顔面蒼白ぶりである。


しかし、同情心などは男には生まれようがない。

それほどのことを、この者はしたのだから。


「───千楽。てめえが何で護衛に選ばれてここまで続けてこれたのか一遍考えてみろ。で、死ぬほど反省しろや。本当に死にやがったらぶち殺すぞ」


返事はなかった。

声がその者に届いたのかも定かではないが、男は気にせず、そのまま部屋へ向かう。





「口笛を吹いてる場合ではねえだろうな」


重厚な扉を半分開けたところで、澄んだ低い声に咎められ、男は苦笑いした。


「てめえは、地獄耳か、彪世」

「お前の口笛がうるさいだけだ。おまけに、今の千楽にぶち殺すぞはねえだろ」

「キスでもしてやればよかったか?」



「それは何、舌噛みちぎって二度と喋れねーようにするって意味か」


────同じく、鳥篭の副総長、 皇 彪世(すめらぎ あやせ)

────コード、“Swan”



呆れたように溜息を吐き、男は、じろりと銀髪を睨んだ。


色素の薄い猫っ毛から、憂いを含んだ綺麗な双眸がのぞいている。

中性的な美貌であるくせに、喉ぼとけは立派であり、骨格もしっかりとした長身の男である。

そのアンバランスさがいいのだろうか。



“皇さまだったら、殺されてもいいから抱かれてみたい。”

“彪世さん、いい情報を持ってくれば遊んでくれるって噂だよ。”

“吐息だけで死んじゃうんじゃない?”

“正直、美しすぎて、未だに直視できたことないよね。”



そんな馬鹿すぎる会話をうっとりとした表情で繰り広げていたのは、何処の女達だっただろうか。


いや、今はそんなことを悠長に考えている場合ではない。