誰も、その場を動こうとする者はいない。
男は階段をゆっくりと降りて鳥たちに近づき、つい先ほど、左遷だ、と鳴いた者の髪を躊躇いなく掴んだ。
ブチッ、と十数本は抜けたであろう音が響く。
そうして無理やり顔を上げさせられ、男と目を合わせた者の瞳は、すぐに怯え一色となった。
「もう一回、何話してたか聞かせてくれていいぞ」
「……っ……いえ、八十さん、すいませんしたっ……」
「違うな。すみませんでした、だ。こんなときくらい正しい日本語使えねえか」
───鳥篭、副総長、八十 虹耀
───コード、“Shrike”
シルバーアッシュの髪を短く刈りあげ、切れ長でややつった目元には不思議と愛嬌があった。
しかし、愛嬌を感じられるのは、間違いなくその男を知らない者だけである。
「……すみませんでしたっ」
言い直しが終わると直ぐに、男は掴んでいた髪を離し、犬歯をのぞかせ、にいっと笑い。
今度は、怯え切った者の髪をわしゃわしゃと撫でた。
何を思っての行動か分からないが、安心させようとしているならば、逆効果である。
鳥はさらに怯え、後退る。
しかし、「何照れてんだ。くすぐってえのか」と、男はあり得ない勘違いをして、眉を顰めた。
その光景を震えながら見ていた近くの者は、密かに思う。
千楽の首を物理的にぶっちぎるとするならば、それはこの人しかいない、と。