「派手にやられたね。まあ、相手も素人ではないだろうから、そのあたりは抜かりなくやるよ」

「本当に、不躾なお願いなんですが、連絡できるものを何か、貸していただけないでしょうか」

「どうして?」


芹は、本当に分かっていないような、きょとんとした表情で少しだけ首を傾げる。

兄が普通ではないのなら、弟も普通ではないみたいだ。



「家族が、心配、してると思うので」

「ああ、家族。そういうの、あったね。お母さん、お父さんとか」

「……いや、親は、いないようなものなんですが、兄、がいて。普段なら、もう家に帰っている時間、だから。心配して、います」


正しくは、心配、以上だ。

驕っているわけでも、自惚れているわけでもなく、それは、真実だった。

双子だから、分かる。



とにかく今は、自分が無事であることだけを伝えられたらいい。

月臣の“家族”としても、どこに向かっているのか分からない車内の中で、ただ“おどおど”とした態度でじっとしているわけにはいかなかった。


身体を半分ひねり、懇願の表情で芹をじっと見る。

すると、隣から、スマートフォンを差し出された。


「状況が分かりきってない以上、お前をいま家に帰すことはできない。連絡ならこれでしろ。ただし、三十秒以上はなしだ。あと、スピーカーにしろ」

「は、い」

「悪いが、こちらもどこの誰だか分からない人間に、そうやすやすと身元がばれるわけにはいかない」


ついさきほどまでは会話に参加するつもりのなさそうだった男が言う。

わたしには平気で名乗ったのに、と思いつつも、苑の指す“身元”がそういうものではないことは何となく分かった。


「ありがとう、ございます」


おずおずと差し出されたものを受け取って、月臣──ではなく鳥篭の事務所の電話番号を打つ。


この状況で、できる会話は限られていた。

発信して、発信音が流れるまでの間で考える。

後ろからも、隣からも視線を感じる。