「似てないことは、ないと、思います」と伝えると、芹は「似てないよ」ときっぱりと否定した。


苑は、窓の方を向いたまま、極力、わたしと芹の会話には入る気がないようだった。


窓の外では、夜の景色が泳ぐように流れている。

暗闇に浮かんではすぐに後ろへ消えていく建物は一切見覚えがなく、鳥篭の区域から、いまかなり離れたところまできてしまったのだろうなと思った。


少しでも早く戻らなければならないのに、今の段階では、最善を尽くすためのピースがあまりにも揃っていない。



「そういえば、不法侵入者の車とかその周辺を調べてたんだけど、女の荷物らしきものがワゴン車の近くに落ちてたよ」


これ、と、芹がシート越しに鞄を持って揺らす。

それは、別物のように汚れてぼろぼろになっていたけれど、確かにわたしの鞄だった。


「……わたしの、です。ありがとうございます」

「そ、よかった。はい、どうぞ」


芹から、汚れた鞄を受け取り、すぐに中身を確認する。


外側はひどい有様だったけれど、中は無遠慮に荒らされまくった形跡はなかった。


ただ、スマートフォンの液晶画面だけが粉々に割れていて、半分ほど中身がむきだしになっていた。

やられた、と憂鬱になりながら、電源ボタンを押す。

人間でいえば、骨や臓器が露わになっている状態だ。半分以上、死んでいる。

スマートフォンは、案の定、反応しなかった。


だけど、月臣には何とかして連絡をいれなければならない。とにかく無事であることだけは、伝えておかないと、彼がどういう行動に出るのか分からない。



「あの、」と、壊れたスマートフォンを芹に見せる。

途端に、彼は顔を盛大にしかめた。

そのゆがんだ顔ですら美しくて、狼狽えてしまいそうになる。