「わたしも、苑、さん? のことは、知らない、です」

「そうだろうな。あと、いつもなのか、それは」

「何が、ですか?」

「最近の女子高生は、そんなに、おどおど喋るのかって聞いてる。それとも、今、こんなくそみたいな状況だからか?」


どうして彼──苑がそんなくだらないことを気にするのか、分からなかった。

いや、本当はまったくそれだけでなく、ほとんどすべてのことが、今、分かっていないのだけど。



───すいは、臆病で脆弱なふりをしていた方がいいからね。

わたしに、そう言って聞かせたのは数年前の月臣で、わたしはその時の彼の平和な微笑みを頭に浮かべながら、「分からない、です」と、大袈裟に戸惑った顔をつくり答えた。



「自分のことだろ。ひとつだけ言っておくが、俺は今、お前を襲う気も殺す気もない。そこんとこは、安心してくれていい」

「それは、あの、はい。……ありがたい、です」

「ありがたがることでもないんじゃねえか。礼の安売りはするな」



ふいに、彼がこちらに手を伸ばしてくる。

なにかと身構えたけれど、ただ、制服のスカートの乱れを直されただけだった。


今の自分の格好を理解して急に恥ずかしくなる。

だけどそれは、言い換えれば、恥ずかしくなる余裕を、いまはもうしっかりと取り戻せていたということでもあった。


手は後ろ手に縛られたままで、シャツのボタンもいくつか取れかけている。

絶望のなかでは分からなかったけれど、本当に酷い恰好だ。

今の今まで、こんなみっともない姿を晒したまま、話していたのかと思うと、惨めだった。