「意識のない女を相手にするのは、はじめてだけどな」


ざらり、と、湿った何かが頬をなぞる。

言いようのない嫌悪感にやられて、咄嗟に、わたしは目を開けてしまった。

わたしを殴った男とは別の男と目が合い、至近距離でにやりと笑われる。


「なんだ、起きてたのか。せっかくだし、お互い、楽しもうや」


そう言うやいなや、男はわたしに跨った。


「…………っ、」


男の力にかなうはずはない。分かっている。

抵抗しても無駄だ。分かっては、いる。そもそも、手首は拘束されたままだ。どうしたって、諦めるしかない。

でも、わたし、何かした? いや、違う。そんなこと思ったって意味がない。いまできる最善の策を考えなければだめだ。

でも、うまく、考えられない。

どうすればいいんだろう。

どうすれば。



男の手が、制服のスカートの下に入り込む。

もう震えをおさえることはできなかった。


「……っ、やめて、ください」


意味なんてない願いを、必死に声にする。

か細く震えた声しか出ず、あまりの情けなさと恐怖で泣きたくなった。


「あはは、震えちゃってかわいーね。いくらあれの妹でも、さすがに無理やりは経験ねーか」

「……っ、やだ、ほんとに、おねがいだからっ」

「んー?」

「や、めてっ……」


まともな抵抗もできないくせに、そのまま流されてされるがままでいることを、本能がきつく拒否している。


もはや、助けてくれるのなら、誰でもよかった。

だけど、わたしを助けられるのは、いつだって一人しかいないのだった。



男の手が、下着に触れる。目元を、べろりと舐められて、絶望した。

カシャ、と、少し離れたところで再びカメラのシャッターが切られる。


本当に。

これ以上は、だめだ。

こころから順に、死んで、しまう。



「───おみっ、たすけて…!」


叫んだ瞬間──カツン、と床に物が落下する音がした。

それからすぐに何かを叩き潰すような鈍い音が二度連続で空間に響く。



わたしに跨る男は、鼻息を荒くさせるばかりで、それには、気づかなかったようだ。

視界いっぱいに興奮した男の汚らしい顔があることには変わりはない。

だけど、世界の彩度が少し下がり、わたしと男は、突如、影に覆われた。




「楽しそうだな。俺も、混ぜてくれよ」

───男の背後から聞こえたそれは、月臣の声ではなかった。


「は?」

わたしに跨る男が間抜けな顔で後ろを振り返る──その前に、素早く影が動き、ものすごい音と同時にわたしの上から男が吹っ飛んだ。