「一発、俺らで汚してから引き渡すか?」

「それ、依頼条件に反してねーのか?」

「大丈夫だろ。それにあれの妹だ、生娘なわけねーしな。ついでに撮っておくか、脅し道具としても、商品としても、かなり高くつくんじゃねーか。追加でもらえるかもしれねーぞ」

「ははは、目が金になってんだよ、お前。もしかしたら、殺されるかもしれねーぞ」


だけど、やはり。

言いようのない恐怖心を前にしては、どんな感情も塵と化す。

かちかちと自分の意思に反して鳴る歯の音がばれないように、きつく唇を噛んだ。



車が止まったのは、それから数十分ほどが経ってからだった。


トランクの扉が開く。

その前に、目を閉じる。瞼越しに、絶望的な夜の暗さを感じた。

意識を失ったままであることを装ったほうがいいと判断して、身体の震えを必死に抑えて、横たわったままでいると、男のうちの一人に乱暴に担がれる。



錆びついた金属同士が擦れるような音がする。

空気が冷ややかなものに変わった。どこか建物の中に入ったようだった。

男は、わたしを担いだまましばらく歩き続け、また別の扉を開いたかと思えば、ゴミでも捨てるような粗雑さで、床におろされた。



「若頭と連絡はついたのか?」

「つかねえ。ただ、任務完了したことは伝えたぞ」

「じゃあ、追加報酬のために一発やるとするか」

「あー、こわ。金はどれだけあってもいいけど、殺されたら終わりだぞ」


カシャ、とシャッター音がする。

複数の男の気配が近づいてくる。

煙草臭い息に、なぜかさきほど殴られた鳩尾がきりきりと酷く痛んだ。