大変! お医者さまを! と大人たちが慌ただしく動き始めたが、リランが覚えているのは自分の手を握って、ずっとかたわらにいてくれた少女の存在だ。
あの小さな手を、少女のありったけの勇気を忘れられようか。

男という生き物は女性が思うよりよほどロマンチストなのだ。ことに初恋に関しては。

成長期を迎えるころには体質が改善し、ありがたいことに喘息も完治した。
そうなると自由に動けるようになったことが嬉しくなり、スポーツや乗馬に夢中になった。
全寮制の男子校に入れられていたから、青春は勉強と男友達と遊んで過ぎていった。
女性より馬の機嫌をとるほうが楽しいという、自分の(多少)ひねくれた性格は、喘息に耐えて過ごした幼少期の後遺症なのか、はたまた生まれつきなのかはもはや不明だが。

自分が心にかける女性は一人だけ。

両親からそれとなく将来の結婚のことを考えてはと促されたとき、頭に浮かんだのはテスのことだけだった。
遠縁でもあるのだし、なにか理由をつけて会いにいこうと伝手を頼ってリベイラ家の現状を調べてもらい、その報告にリランは愕然とした。

テスは祖母と二人きりで、町を牛耳る豪商からの嫌がらせに晒されていたのだ。