ヒースクレストに滞在している間は体調も好転したものの、病魔はリランを放してくれたわけではなかった。

ある晩、よりにもよって真夜中に喘息の発作に襲われてしまったのだ。
リランは一人、たとえるならたんぽぽの茎ほどの細い管で息をしているような苦しさに耐えていた。
薬もどうせ気休めにしかならない。ただ苦しんで、この時間をやり過ごすしかないのだ。

暗闇の中で「ヒューヒュー」という自分の喘鳴(ぜいめい)だけが音をたてている。

「リラン、どうしたの?」
という心細げな少女の声を、幻聴のように聞いた。
それが本当の声でも、自分は返事をすることができないのだ。

暗闇のなかで枕元のテーブルを手探りしているのを気配で察する。
ポッとマッチが擦られロウソクに火が灯された。

「リラン、だいじょうぶ?」
自分をのぞきこむテスの顔も、今にも泣き出しそうにゆがんでいる。
泣かないで、と彼女を撫でてやりたいのにそれも叶わない。
テスとてまだ9歳の少女なのに、隣の部屋で寝ている少年の喘鳴に気づいて心配になって見にきてくれたのだ。

「お父さまとお母さまを呼んでくるわ」
と白い寝巻きのすそをひるがえしてかけてゆく。