いつのまにかワルツが止んでいた。
人々がテスたちを取り巻き、輪を作りはじめた。

「それは、それは…」
ゼドーの額に粘っこい汗が浮いている。

ゼドー殿、リランの声は明瞭かつ威厳があった。
「商売の基本理念は相互利益でなくてはなりません。どちらか一方だけが利を(むさぼ)るのは、商いではなく搾取です。
当家はそのようなやり方をする家とは、どのような形であれ取引をする気はありません」

人の輪から、小さく口笛が鳴るのが聞こえた。

「なにをおっしゃりたいのか…」
ゼドーが低く唸る。

「義がなければ、誠がなければ、金で使っているだけの連中はそれ以上の金に、簡単に口を割ると申し上げておきます。
なにか後ろ暗い真似をしているのであれば、の話ですが」

裏金は抜かりなく撒いているであろうゼドーだが、ギュスターヴ侯爵家には、それ以上の財力と代々地域の発展に貢献してきて得た信頼と、多方面に渡る人脈がある。

「いずれ全てが明るみに出ることでしょう」
リランが静かに告げる。
必要以上に敗者を鞭打つことはしない。彼はあくまでも紳士であるからだ。