リランがあまりに平然と口にしたので、一瞬テスはそうだったかしらと受け入れてしまいそうになった。

ゼドーとマリベルは揃って、脳天に金だらいを落とされた喜劇役者のようのような反応をみせた。
衝撃に、表情も身体も引き攣っている。

「リ、リラン、なにを…」
テスはようやく我に返った。さすがに彼の発言を訂正しなくてはと焦る。
婚約などという事実は全くないのだから。

「ああごめんよ、テス。まだ公にはしてなかったのに」
悪びれることなく、リランは甘やかな視線をこちらに落とす。
婚約者に自分のせっかちさを詫びる態度そのものだった。

周囲の人々が、ちらちらとこちらに耳目をそば立てているのが分かる。
社交やビジネスにおいて重要な事態が起ころうとしているのではと、察し始めたようだ。

「そんな…ことが…」

言葉を絞り出すゼドーの身体は、少し縮んでしまったように見えた。

「ええ、ですから今後、リベイラ伯爵家とギュスターヴ侯爵家は、ビジネスにおいても重要なパートナーということになります」
リランの声が凛と響く。