彼の手はテスだけを求め、彼の瞳はテスだけを見つめている。
さらりと額に落ちかかる長めの前髪の奥にある、時を閉じこめたような琥珀色の瞳。

そんなに見つめないで、と願う。
すべてを見通されてしまいそうだ。
リランとまだろくに言葉を交わしてもいないのに、彼に惹かれつつある自分の胸のうちまでも。

アイダはフロックと踊っており、すれ違ったときにウインクを送ってくれた。

通常、カップルで来ているのでないかぎり、一曲終わるとパートナーを変えるものだが、リランはテスの手を離そうとしなかった。
二曲、三曲と踊り続けるうちに、リランの巧みなリードのおかげもあり、だんだん息が合ってきた。

ダンスそのものが楽しいと感じられる。
相手と呼吸を合わせてリズムを刻む、そこは乗馬とも通じるところだ。

途中、曲が終わったところで、がっしりした体躯の青年が「失礼、わたしとも踊っていただけませんか」と声をかけてきた。
どこか粗野さが抜けきらない風貌だ。
テスとリランを引き離そうとゼドーが差し向けた彼の配下、といったところだろう。