言葉が出てこないまま、テスはどうにか腰をかがめてスカートの裾を両手でつまんでみせた。
「受諾」のポーズだ。

リランが口元に微笑を刻み、優雅な手つきで薔薇をテスの耳の上あたりに挿しこんだ。

「お手をどうぞ」と差し出される手に自分の手を重ねた。
リランにエスコートされるまま、広間の中央へ進む。
ようやく周りが見えてくると、一同のあっけにとられた表情を眺める余裕も出てきた。

ゼドーの口元は、こんなはずではなかった、と言いたげに曲がったまま動かない。

リラン一人が悠然としている。
「どうぞ皆さまもワルツを、この夜を楽しみましょう」
とゼドーに代わって呼びかける。

リランの言葉を皮切りに、他の男性陣も歩を進めてダンスの申し込みを始めた。
踊りの輪が広間に広がった。

マリベルはと、茫然自失といった様子だ。腫れ物扱いのようで、誰もダンスを申し込もうとしない。

ありがたいことに、リランのダンスの腕前は確かだった。
彼のリードに任せていればいいのだと、繋いだ手や腰に回された腕から伝わってくる。