女性側の最前列中央は、もちろんマリベル。
リランとまっすぐ向き合う位置だ。

テスは後方に控えていたかったけれど、年配の婦人たちに前にいくよう促された。
「ここはわたしたちの場所よ。若くてきれいな娘さんは前のほうに行かないと」

というわけで二列目の端のほうにアイダと立っている。
これだけの人数がいるのだから、誰かがダンスを申し込んでくれるだろうけど。
踊るのは久しぶりだ。きちんとステップを踏めるかしらと、今さら心配になってきた。

「えー、おほん」とゼドーが咳払いを一つして一座に告げる。
「それではまず、主賓でありますギュスターヴ侯爵家令息リラン殿から、ダンスのお相手を選んでいただきたく存じます。
赤い薔薇を捧げられるとは、お心に決めた相手がおられるのでしょうか」

ゼドーが期待をこめた視線を隣のリランに向ける。

口元に微笑をたたえて「そう思っていただいて結構です」とリランが答えた。ソフトな声音だ。
女性陣から小さく歓声が上がった。

斜め後ろの位置からマリベルをちらと見ると、耳たぶや頬がほんのり染まっている。