なかなか上手いやり方だ。
プロポーズとまでいかなくとも、リランがマリベルに花を捧げてダンスの申し込みをすれば、定まる仲として人が認めるところとなる。

「紳士方は下手(しもて)に、淑女の皆さまは上手(かみて)に分かれてお立ちください。
黒服(ボーイ)が花をお配りします」

ゼドーの言葉に、広間に集っている男女がざっと移動した。
色とりどりの花束を抱えた黒服が、男性ゲストの間をまわっている。

ついつい目で追ってしまう。
リラン・ギュスターヴはと、おやおや、赤い薔薇の花を無造作に抜きとっている。

三分咲きで棘もきちんと処理された一輪。顔を近づけて香りを楽しむ仕草まで絵になる人だ。

楽隊が控えめにワルツの前奏を鳴らしはじめた。

広間に男女が分かれ、距離をおいて向き合い並んでいる。
男性の最前列中央は、むろん主賓のリラン・ギュスターヴ。
胸のあたりに薔薇を持ちたたずんでいるだけで、内から光を放っているようだ。

リランの隣には得意げな様子のゼドーが並ぶ。