人がごった返しているのもあって、息が詰まりそうだった。
早くも自分の住まい、ヒースクレストに帰りたくなった。

長年使いこまれ、部屋の一部になっている樫材の家具。
アクセントカラーは深緑や紺色、珊瑚色など、どれも目にやさしい色調だ。

住む主が変われば、ヒースクレストの室内まで様変わりしてしまうということなのか。
その可能性に暗然とする。それはヒースクレストへの冒涜(ぼうとく)にほかならない。

テス、と自分を呼ぶ声に振り向くと、旧友アイダの顔があった。
アイダは大学に進んでこの町を離れたので、しばらくぶりだ。二人は手を取り合って、再会を喜んだ。

「あなたも呼ばれていたのね」

「ばら撒けるだけ招待状をばら撒いた、って感じよ。
こうして衆人に見せることで、ギュスターヴ侯爵家との関係を既成事実にしたいんでしょう」

ほら彼よ、とアイダが行儀わるくあごでしゃくってみせる。
「大学の友人だとかのフロックという青年と一緒に来ているわ」

教えられずとも、そこに主賓がいるのだろうと察しはついた。人が幾重にも取り巻いているからだ。

人垣のすき間から、アッシュブラウンの髪がちらと見えた。