そこではフェント家の当主夫妻と、すこし離れた場所で娘のマリベルが、客人たちを出迎え挨拶を交わし歓談していた。

マリベルのいでたちには、よくも悪くも目を奪われる。
彼女は赤茶色の美しい髪をしている、とテスは思うのだが「赤茶色」と誰かが言おうものなら、マリベルは「金髪(ブロンド)よ」と烈火のごとく怒ったものだ。

その髪を誇らかに結い上げ、いくすじもの巻き毛を顔まわりや首すじにたらしている。
白粉(おしろい)を念入りにはたいたのだろう肌は、白磁のようといえなくもない。
牡丹色(ピアニー)のドレスはバッスルスタイルで鳥籠のように膨らませてあり、引裾(トレイン)は長い。

大輪の花にたとえてみるのはどうかしら、などと思いながらテスは順番を待った。

「こんばんはマリベル、お招きありがとう」
肩をそびやかすマリベルに声をかける。

「あらテス、お久しぶり。一着しかない礼装がよくお似合いね」
これみよがしに羽根飾りのついた扇を広げてみせる。

「ありがとう、あなたも|牡丹色(ピアニー)のドレスがよくお似合いよ。髪の色によく映えるわ」

テスの言葉にマリベルの(まなじり)が釣り上がった。赤いドレスを纏っていても、髪はあくまで金髪(ブロンド)ということらしい。