舞踏会当日、ベッシーに手伝ってもらいながら身支度をした。
滅多につけることのないコルセットは、やはり窮屈だ。

髪はひたいぎわだけコテをあてて巻き、あとはゆるやかに結い上げた。

「お嬢さまのお(ぐし)は艶やかでたっぷりしてますから、仰々しくなさらなくても十分華やかでいらっしゃいます」
ベッシーが請け合う。

「べつにわたしは主役じゃないもの。控えめなくらいがちょうどいいのよ」

若かりし父が母に贈ったというサファイアのチョーカーを首に飾ると、気持ちがあらたまった。
黒のベルベット地に、小粒のダイヤモンドに囲まれたセンターピースのサファイアからなる美しい品だ。
冷たいはずの貴石が、今は温もりを与えてくれる。

ヒースクレストを去ることになっても、このチョーカーは父母を偲ぶゆかりとして、手放さずにいたいものだ。

ドレス姿に華奢なダンスシューズではさすがに馬に乗るわけにはいかないので、辻馬車を頼んでおいた。
馬車に揺られて、テスは一人フェント邸に向かった。