俯いたままの小野寺がそれだけ言うと
「先輩、行きなよ。遅刻するからさ…ほらっ!」
握っていた手を離し、藤咲が前へ進ませようと
いや、愛理に俺の元に行くように小さな背中をポンッと優しく押した。
「ふ、藤咲くん?」
それに泣き顔と不思議顔を合わせたような顔をして立ち止まり、愛理が藤咲の顔をじっと見る。
その愛理の顔を見て、藤咲が大きな口を開け…いっぱいの笑顔を見せると
俺に視線を移動させて真面目な顔でこう言った。
「陸先輩…さっきオレが言ったことホントだから!どんな理由にしろ…次、愛理先輩のことを泣かせたらオレは黙ってないっすよ」
「お前……」
「先輩たち、早く行きなよ。オレ、今すげぇガンバって自分の気持ちと反対のことを言ってんだから。それと小野寺のことはオレがどうにかしておくよ」
「藤咲くん、あたし……」
「ほらほら早く行った、行った!それと愛理先輩はさぁ、バカみたいに笑ってる方がいいよ!それしか取柄ないでしょ。あっ、でも また泣く時はオレが隠してあげてもいいけど?」
まだ1歩も動こうとしない愛理にもう1度、笑顔を向けて
「おい、オレたちも行くぞ」
と言って、藤咲は俯いたままの小野寺の手を引き1年の校舎へ歩いて行った。
知らない間に絡まっていた4つ糸のうちの2つが、こんなふうに解(ほど)けていき、残された俺と愛理は──・・・