赤く腫れあがった顔半分が隠れれば、女神のような美しい令嬢の姿がある。
 若くて美しい令嬢にしか見えないのに、口から吐き出される言葉は、老人のしわがれた声だ。
「そして私は婚約破棄され、私を呪ってこんな顔にした男爵令嬢が新しい婚約者の座に就いた」
 醜悪魔女の一人が足りが続く。
「一方私は、皇太子に婚約破棄された醜い女として幽閉されたわ。醜いと言うだけで、私の人生は終わったの。しかもどれだけ男爵令嬢のせいで呪われたと訴えても、嘘をつくなと。それどころか皇太子妃になった男爵令嬢を害するつもりだと命を狙われ……幽閉先から逃亡せざるを得なかった……それからの私は一目のない森の奥で研究の日々」
 手に汗がにじんできた。
 なんてひどい。
 これがすべて本当のことだとしたら……。
「ねぇえ、皇太子はその隣の伯爵令嬢を婚約者にするるもり?選んだ理由を聞いても?まさか、見た目ではありませんわよね?」
 皇太子は突然の醜悪魔女からの指名にもきっぱりと答えた。
「もちろんだ。マリアーナは心の美しい女性だ。ひどい扱いをする義姉のことも庇うような」
 ……ひどい扱いをしているつもりはないけれど。
 馬車の中で妹に言われた言葉を思い出す。そのつもりがなくてもめぐりめぐって苦しめていることは確かにあって。それに気が付かなかった……、義妹がどんな状態にあろうと気にすることもなかったというのはまぁ、ひどいといえばひどいのかもしれない。
 学園にいる時間は授業以外はほぼ図書館か研究室にこもっていたし、人付き合いらしい人付き合いもなかったので気が付かなかった。


「あーははははははっ、はははははっ!」
 皇太子の言葉に、醜悪魔女が狂ったように笑い出した。
「そう、そうなの!心などいくらでも偽れるというのに!美しい心にひかれた?あははははっ!私の顔をこんな風にした呪いをかけたあの女が、どれほどの嘘を重ねたか!今、どんな風に私は噂されてる?醜悪魔女は国を滅ぼそうとした、その魔女から陛下を守った王妃だと、そう語られてるわよね?」
 確かに、そんな話もあったなぁ。
「曾祖母を悪く言うな、醜悪魔女よ。曾祖母は夢見の力があり、お前が王妃になったら浪費により国庫を枯らし国民は飢えそれをよく思わない貴族が反旗を翻し国は亡ぶという未来を見たのだ」
 皇太子の言葉に、醜悪魔女がひときわ大きな声を出した。
「笑止!」