「あんな義姉でも、私の大切な家族ですわ……。処罰だなんて……。いくら、私の評判を落とそうとわざと制服を着てきたからと言って……」
 マリア―ナの嘘鳴き声が聞こえてくる。
「マリアーナはなんて優しいんだ」
 皇太子の声に、少しだけため息が漏れた。
 わざとではないことは分かっているはずなのに。
 ドレスがないのだ。
 ……いや、私がそう主張しても「ドレスがないかわいそうな演技」だと一笑されて終わりだろうか。
 馬車で義妹に言われたことを思い出す。
 確かに、馬車に乗って通わなかったのは私の意志だ。
 それがめぐりめぐって義妹の評判を落としていたとしたら、言い訳はできない。
 気が付かずに3年間過ごしてしまった、妹が自分のせいで孤立しひどい噂を立てられていたことに気づきもしなかったひどい義姉だと言われれば、言い返す言葉もないのだから。
「やっぱり、シャーラも制服だった」
 クスリと笑って、アンドレ様が近づいてきた。
 この国の第二王子、アンドレア様。
 正妃の息子である第一王子と3日違いで生まれた側室の子。

 「アンドレア様も、このような日に制服でよかったのですか?」
「うん。僕には王子としての役割は何もないし、期待もされてないからね」
 自虐的な言葉に思えるが、アンドレア様はさっぱりとした顔で口にする。
 3日違いの側室の子。
 王妃が疎ましく思わないわけがない。
 辺境伯から嫁いだ王妃をないがしろにできない陛下も、王妃の顔色を見ざるを得ない。
 そのため、側室と第二王子アンドレア様は、離宮に送られた。
 ひっそりと育てられたアンドレア様は、社交の場には姿を現さず、学園に入学後も、目立った活躍はしていない。
 私同様、図書館の住人。
 研究に明け暮れる日々。
「ああ、ワクワクするね。卒業式が終わったら、僕はそのまま行くつもりだよ。実は研究室にすでに荷物は運びこんでいるんだ」
「まぁ!その手がありましたね!私もそうすればよかった……荷物を」
 そこで、ちょっと部屋の様子を思い出す。
 ドレス1つ持っていない。
 一番上等な服はこの制服だ。金目の物も、義妹と義母に奪われ何も持っていない。
 ……学生相手にこっそり物を売って手に入れたお小遣いは、家に持ち帰らずに学園のとある場所に隠していた。
「私も、卒業式が終わったらそのまま行きます。どうせ荷物らしい荷物はないから」