殿下が口を開いた。
「はっ、確かにマリアーナのことは好きだったさ。それは美しいと思っていたからだ。醜い顔しやがって。お前の心がそんなに醜いと知っていたら好きになどなるものか!」
 マリアーナはハエの顔に不釣り合いとも思える、綺麗に整えた髪の隙間からびよんと触角が飛び出した。
「ううう、レインドル様……」
 マリアーナが宰相息子のレインドルらしき蜘蛛顔の方へと手を伸ばす。
「汚らわしい。マリアーナ嬢、脳みそは空っぽ、口を開けば天気がいいだの花がかわいいだの。天気と言えばどこぞの領は雨が少ないと会話に付き合えば、首をかしげて別の話にすり替える。分からなければその領はどこだと聞けばまだかわいいものを。知らないことを知らないまま放置する馬鹿は好きになれなかったんだ」
 マリアーナは懲りずに、今度は騎士団長のゾウムシ顔息子に手を伸ばす。
「また、私の体に触れるつもりですか?流石に鍛えていて素敵な筋肉ですねと言いながら、まるで娼婦のように男性に触れる。あばずれ女め!」
 普通は心が折れそうなのに、マリアーナは負けずと今度は筆頭公爵家嫡男へと伸ばす。コオロギだろうか。
「一緒に出掛ければ、素敵な宝石だとか素敵なドレスだとか、店に寄っては物欲しそうに私の顔を見ていただろう。私が買ってあげようと言うまでしぶとく店から離れない貪欲なところには反吐が出るっ!」
 最後にマリアーナは隣国の第三王子へと手を伸ばした。
 テントウムシかしらね。彼らの中ではかわいい部類に入ると言えば言えなくもない。
「どう責任を取るつもりですか?あなたの心が醜いせいで、醜悪魔女を呼びよせたのでしょう?国際問題ですよ?」
 国際問題と言う言葉に、息をのむ者たちもいる。
 義妹は隣国の第三王子にも拒否されて、ついに心が折れたのか、うなだれた。
「そうだ、お前のせいだっ!クソがっ」
「大体伯爵令嬢ごときが皇太子殿下に近づくなんて心が美しければできるわけないのよっ!」
「そうだ。他の男とも仲良くしていたんだろ、アバズレめ。心が美しいわけないんだ」
 虫頭が取り囲んで一斉にマリアーナを責め立てる言葉を口にする。
 流石に、これは、見ていられないと。義妹を助けなければと一歩踏み出そうとしたところでアンドレア様に手をつかまれた。
 どうして止めるの?このまま義妹が皆に責め立てられるのを見過ごせと?