ぶわりと強い風が会場に吹きわたる。
 醜悪魔女の声がそれに続いて響いた。
「教えてあげるわ。男は言うのよ。彼女の美しさは顔じゃない、心だって。優しくて思いやりがあるって。私の元婚約者も、愚かな皇太子、お前も言ったわよね」
「愚かだと?真実を口にすることが何が愚かだ!」
 ゴキ殿下の憤りに、醜悪魔女は天井につり下がっているシャンデリアに腰掛けて大笑いした。
「あーははははっ、そうでしょう、そうでしょう。あなたたちは、顔が美しいから好きになったなんて絶対に口にしないのよね?心がどれほど美しくても、顔が醜い女はモテないのはなぜなの?正直に顔が好きだって言えばいいのに。中身を見てるフリなんかして、ははははっ、男なんて、女の中身なんてどうでもいいくせに!」
 アンドレア様がぐっと手を握り締める。
「男はみんなそうだみたいな言い方は撤回してほしいな……」
 ぼそりとつぶやきを漏らす。
 ……うん。そうじゃない人もいるって知ってるけれど。
 女は飾りだ。女は頭を使わなくてもいい、かわいく愛想を振りまいていればいいんだ……と。
 父に言われた。書斎への出入りは禁じられた。研究者なんてとんでもない許さないぞとも言われた。
 ……義妹を見習えと。
 女は、男の虚栄心を満たすためのアクセサリー。見た目が一番大切。
 女は、世継ぎを産ませるための道具。健康が次に大切。
 女は、支配欲を満たすためのいけにえ。逆らわず従順でいることが大切。
 見た目がいい従順で健康な女が必要で、中身などどうでもいい……。そう思っている男性は多い。
 でも、私は見つけた。研究所で働く道を。
 男の人に選んでもらおうなんて思っていない。だから、平気。
 誰に、なんと思われていたって……。
 醜悪魔女は続ける。
「顔は隠せないけれど、心などいくらだって隠したり偽ったりできるのに……その作った嘘の美しさに男はころりと騙されるのよ。本当に心が美しい?あんたみたいな醜い女目障りなのよと言う女が?自分の美しさで男たちをいいように操ろうとする女が?」
 殿下が叫んだ。
「いい加減にしろ!美しい女性に嫉妬した戯言だ!醜い女は心まで醜い!」
 醜悪魔女がふっと笑った。