それにしても、ゴキ〇〇に代わってもなおすぐ隣から逃げ出さない義妹は本当に殿下を愛しているんだ……ね?
 側近たち……と思われる者もその場から逃げ出していない。
 義妹の声に、人々が騒ぎ出す。
「そうだわ、あの美しい顔をした令嬢は地味侯爵三女よ。不細工だったから綺麗になったのよ」
「ああ、あいつもだ。イケメンに変わったあいつは確か子爵家ぼんくら嫡男だろう」
 子爵家ぼんくら嫡男って……。
 どんくさくて人にいいように使われていると噂されていた。
 彼もまた、虐げられているのかと思っていたけれど。
 誰かが喜んでくれるのが嬉しいんだ。少しでも僕が役立てるなら嬉しいと、何かを頼まれることに喜びを感じていた。まぁ、それを利用して、困っているふりをして騙すようにいろいろなことを押し付けられていたのだけれど。
 それを知っていても、本当に困っている人も中にはいると思うからと。その困っている人の頼みを間違えて断ってしまったら後で絶対に後悔するから、頼まれごとは断りたくないんだ……って。
 弟と喧嘩しているのを耳にしたことがある。そういえば弟は?
 ああ。ぼんくら子爵の弟は私やアンドレア様と同じように、ほとんど顔は変わってない。美しくもなっていないけれど、醜くもなっていない。んー、少しだけ顔の色が悪くなってる?いや、それは周りの昆虫頭に気分を悪くしているのかもしれない。
 おかしいな。弟は、それなりに顔の作りがいい部類に入るから、もし、本当に美しい者が醜くなるのであれば、もうちょっと顔に変化があってもいいと思うんだよね。
 ……って、まって、私とアンドレア様の顔に変化がほぼないのは「ちょうどいい感じに普通」だから?
「そうなのね、私は美しかったからこんな虫けら顔に……」
「俺もかっこよすぎたか。それが証明されたということだ」
 などと口々に納得するような声が聞こえてきた。
「待ってくれよ、あの芋虫頭は、ゴブリン令嬢だろ?」
「陛下の姪、公爵令嬢の?確かにあの趣味の悪い紫のドレスは……」
「醜い者が美しくなるなら、ゴブリンは女神にでもなってないとおかしくないか?」
「あいつもだ。ゴリラもかわいくなってないぞ」
「ぶつぶつ豚侯爵子息も毛虫じゃねぇか」
 ……。
 なんだか、容姿に対する悪口大会のようになってきてて、耳を塞ぎたくなってきた。
「的外れな話はそこまでにしてちょうだい」