トリアンナの姿を見て、男性陣が色めき立ち、女性陣が嫉妬心を燃やしているようだ。……たぶん。 
 皇太子殿下や義妹を始め、着飾った貴族の多くが蜘蛛やムカデ、蜂やトンボ……と昆虫のような顔に変化している。
 人としての形を保っている者も、大きなあざが現れたり、瞼がはれぼったく垂れていたりと美しいと褒められるような顔ではない。
 それから、トリアンナ様ほどではないけれども、美男や美女と読んでもいい人もちらほらといる。
 ……それから、目の前に立つアンドレア様といえば、平凡な顔立ちのままさしたる変化は見えない。
 多少……眉がりりしくなったような気がしなくもない?
「シャーラ、僕はどんな顔になっている?君は、いつもと変わらないように見えるけれど……」
 アンドレア様が自分の顔を触りながら首をかしげる。
「私の顔、変わらないですか?アンドレア様もいつものアンドレア様ですよ?」
 そう答えると、少しがっかりしている。
「そうか、少しはかっこよくなったかもと思ったけれど、期待外れだったか。シャーラ好みの顔に変化してたらよかったのに」
 はい?
「私の好みの顔?」
「シャーラはどんな顔が好きなの?男らしい顔?美しい顔?眉は太いほうがいい?口は大きな方が好き?」
 会場中が、自分の容姿が醜く変化してしまったことに大騒ぎしているというのに、私はアンドレア様の言葉に心臓がびっくりして早鐘のように鼓動が速くなった。
 アンドレア様は研究一筋で、自分の容姿になど興味がないと思っていたのに。
 ドレスもよく見ていたし、自分の容姿も気にするのだとすれば……。
 当然、女性の容姿も気にするってこと……なのかと。
「私は、私は……目鼻立ちがぼんやりとした印象に残らない容姿をしていますし……その、平均的な容姿の私が、顔で相手を選ぶようなことは……自分を否定するようなもので、好きな顔は……特になくて……」
 アンドレア様が息を吐き出した。
「ああ、そうなんだ。シャーラもか」
 ん?シャーラも?
「僕も、顔なんてどうでもいいんだ。好きになった相手の顔が好みって本当だよね……でもさ」
 でも?
「流石に、兄の顔を見ると、容姿はどうでもいいなんて綺麗ごとかなと思ってしまって……」
 ゴキ〇〇の顔をした殿下をに視線を向ける。