そういわれてみれば、この世の物とも思えないほど美しい女性……アンドレア様の言うのが本当であればトリアンナ様の黄色いドレスは裾に泥はねのような洗濯しても落ちなかったであろうシミがあり、サイズも体に合っていなかった。
「侯爵家であれば新しいドレスを仕立てるくらい金銭的にも難しくないだろうに……」
 なるほど。だから印象に残って覚えていたというんだ。
「トリアンナ様は……」
 私と同じように、家族に虐げられてドレスを作ってもらえない……というわけではないのでしょう。
 髪はしっかりと結われている。
 顔は、とてつもなく美しい別人になってしまっているため、今は分からないけれども。
 普段から手入れはされていたはず。
「ドレスは「仕立てるお金をくださいませ」といって現金で受け取り孤児院に寄付したのかもしれませんわね……そういう方ですもの」
 そう、私とは違う。違った理由でドレスは持っていないのだ。
 前々から噂は耳にしていた。
 刺繍の腕前は素晴らしく、上達のコツを聞いたところ「美しく縫えれば売れるでしょう?孤児院のバザーに寄付するのよ」と答えが返ってきたらしい。目標があれば上達するということだそう。
 時折「食べ残すのであればいただけないかしら?」と、食堂で食べ残したものを分けてもらっている姿も目撃されていた。
 もちろん、家で虐げられていて食事もろくに与えてもらえないので持ち帰って食べるわけではない。
 やせ細った動物に分けてあげていたのだ。コロコロとかわいくなれば飼い主も見つかるでしょうと。そうでなければ元気になったら森へ帰すために……と。
 とても心の優しい素敵な令嬢なのだけれど……特に目立ってはいなかった。
 私のように「同類かも?」と思って意識して見ているか、馬鹿にしてからかう相手を探すような人間くらいしか注目していないだろう。
 それほど、目立たない容姿の令嬢だった。侯爵家といえども伯爵家に近い家柄だったし。侯爵家と結びつきを持ったとしてもさほどうまみのある家ではなかったというのもある。成績も凡庸なものだ。人並外れたボランティア精神の持ち主ではあったものの、貴族というものは多かれ少なかれ奉仕活動は当たり前のようにしている者も多くひときわ目立つということもなかった。
「あの美しいご令嬢は誰だ?」
「なぜ、あの子は美しい顔になったんだ、他の奴らは……おえっぷっ」