拡声の魔法が使われたのか、鼓膜を大きく震わせる大音量に、会場のざわめきが一気に収まった。
「その言葉も偽りだと、夢見の力も偽りだとなぜ気が付かない」
「それは、何度も曾祖母の言う未来が現実になったからだ」
「劇場が火事になるという夢見?劇場を火事にするという予告でしょ?嵐が来ると言う夢見?嵐が来るという予報でしょ?生まれてくる子は男児だという夢見?男児が生まれるまで子を産んだだけでしょ?」
 言われてみれば。
 どれもこれも、夢見による未来視でなくとも、人としての行いを逸脱さえすれば再現できることのように思える。
 ……もしかして女児が生まれたら死産だったとか言い、夢見の通り女児は生まれなかったということすらやっていたのかもしれない……。おぞましい想像に身震いする。
「い、言いがかりだ!やはり、そうして人を悪者に仕立てようとするあたり、醜悪魔女らしいな。なんと心の醜い女だ!」
 皇太子が人差し指を醜悪魔女に突き出した。
 そして、短く呪文を詠唱し、火魔法を発動させた。
 殿下の指先から、大きな火球が醜悪魔女に向けて放たれる。
 殿下に続いて、宰相の息子などマリアーナを囲んでいた他の男も次々に攻撃魔法を醜悪魔女に放った。
 なんてことだ。一人の人間に対して5人が同時に上級魔法で攻撃するなんて……。
「まだ、話は終わっていないわよ、坊やたち。それにしても、そろいもそろってお馬鹿さん」
 魔法で攻撃されたとは思えないほど、先ほどと同じようにそこに醜悪魔女はいた。
「効かないだと……」
「そうよ。どんな魔法も私には効かない。でも、そろそろ赤い雨に混ぜた薬があなたたちには効いてきたようね?」
 赤い雨に混ぜた薬?
「まさか、毒か!」
 皇太子殿下の声に、会場が再びざわめく。
「あはは、毒じゃないわよ。美しくなる魔法薬よ。嬉しいでしょう?」
「美しくなる魔法薬だと?」
 殿下の顔に変化がみられる。
 殿下だけじゃない。
 マリアーナの顔も変化が始まる。
「うわ……あれが、美しい?」
 思わず声が漏れる。
 確かに、生徒たちの顔が変化を始めたけれど……。
「ふふふ、どう?素晴らしいでしょう」
 醜悪魔女は満足そうに声を出す。
 講堂の生徒たちは、周りの生徒たちの顔を見ては悲鳴を上げ、自分の顔に手を持って行っては悲鳴を上げ、ガラスに映る自分の顔を見て気絶した。