事件から3ヶ月が経過した。

 私は今日、結婚して、渋谷翠になる。

 妊娠の経過は至って順調。23週に入って妊婦らしいお腹になってきた。

 マタニティー用のウェディングドレスは胸下切り替えの流れるようなデザインでサテンオーガンジーが贅沢にあしらわれ優雅な印象を与えてくれる。想像以上の美しさに大満足の仕上がりだ。

 そして私の隣にいるのは、海外ブランドの広告から抜け出てきたかと見紛う程の美貌を振り撒く渋谷君。

「龍一君て凄いイケメンだよね‥‥」

「え?何を今更?」

 冗談が冗談になっていなくて笑えない。

「翠も凄く綺麗だよ」

 イケメン顔でそんな甘い言葉を囁かないで欲しい。恥ずかし過ぎて顔が真っ赤になってしまう。せっかくの綺麗なメイクが台無しだ。

「俺を好きになってくれてありがとう。これから俺と翠とこの子で、たくさん幸せになろう」

 泣きそうなのを我慢するのに精一杯で、頷くことしかできない。顔が歪んでさぞかし不細工になっていることだろう。

「愛してるよ」

「私も、龍一君を愛してます」

 愛の言葉と一緒に涙がこぼれ、メイクのお直しが決定した。

「ふふ。翠があまりに可愛くてずっと我慢してたんだ。これでキス、してもいいよね?」

「せっかく泣かないように我慢してたのに!」

 怒る私をもろともせず、渋谷君が私に優しくキスをして、そのまま抱き締めてくれる。

「はああ‥‥幸せ過ぎておかしくなりそう」

 恋愛がこんなにドラマチックだなんて知らなかった。これからもきっと色んなことがあるんだろう。先は果てしなく長い。

「大丈夫、俺はどんな翠も大好きだから」

 そうだ。私には渋谷君がついている。どんなことがあってもふたりで乗り越えていけばいいんだ。

 私はきっと、これからもっと幸せになる。

 (完)