昔使っていたフリーアドレスのメールボックスを確認してみたら、貴之さんからのメールがいくつかDMに紛れているのが見つかった。

 半年程前からたまに届くようになったメールは、当初再婚した相手に関する愚痴だった。気が強そうな彼女は姑と激しくやり合い、貴之さんはふたりの間で相当苦労していたらしい。

 少しすると、メールの内容が子供の話になった。私と別れてまで再婚したにも関わらずいつまでも子供ができないことで、再婚相手と姑に怒りを感じているという内容だ。

 その内容がある日一変した。

 妊娠しないことを責められた再婚相手が不妊検査を受け、その結果を夫と姑に叩きつけたのだ。妻側に不妊の傾向はみられないという内容の検査結果‥‥貴之さんは自分にも原因があるという可能性に薄々気づいていたという。子供ができない責任を私に押しつけたことを謝罪するメールが届いたのは今からひと月前。

 そこから貴之さんの様子がおかしくなり、俗にいう『ロミオメール』といわれるものが数日おきに送られてくるようになったのだ。

 日を追うごとに妄想は強くなり、内容はより過激になっていく‥‥

「これはやばいな。メールを俺に転送してくれる?知り合いの弁護士に相談してみるよ。こういうのに詳しい人を紹介してもらえるかも‥‥」

 翌日渋谷君にメールの件を報告するとすぐに対策を検討してくれて、それがいつも以上に心強く感じられた。

 どうにかこのまま穏便に終息を迎えたい‥‥そんな私の願いは届くことなく、その数日後に事件が起こってしまう。

 いつも通り渋谷君に家まで送ってもらって家に入ろうとした時、もの凄い衝撃音が響き渡った。驚いて様子を伺うと、渋谷君の車が数軒先の家のガレージに突っ込んで動かなくなっているのが目に入る。

「龍一君!?」

 慌てて駆け寄ると、車はガレージの壁を削るように突っ込み、中に置いてあった車もろとも潰れているように見える。車体は無事だが渋谷君に動きがない。

「龍一君!?大丈夫!?」

 そうだ、救急車‥‥放り投げたバッグを探そうと周囲を見回した時、車のそばで倒れている人に気がついた。え?人を巻き込んで事故ったってこと!?一体何があったの!?いや、とにかく今は救急車を呼ばなくちゃ‥‥

 レスキューが到着してすぐに渋谷君の救出作業が開始される。もうひとりの被害者は先に救急車で搬送され、警察が現場検証を開始していた。私も警察に事情を聞かれたが、事故の瞬間を見ていないので何もわからない。

 なんでこんなことになってしまったのか‥‥不安で体の震えが止まらなかった。