「突然こんなこと言われて戸惑うよね?でも春日さんが離婚したって聞いた時、今度こそちゃんと気持ちを伝えるって決めたんだ。高校の時みたいに何もできないまま手の届かない存在になるのだけは絶対に嫌だった」

 春日さんが俺を上司と認識してるのは明らかだったから、仕事にかこつけてふたりきりの時間を作り、こうしてデートに持ち込んだ。

 今の関係を変えたくて思いきって告白してしまったが、これが正解だったかはわからない。

 離婚したばかりの春日さんは恋愛なんてする気分ではないのかもしれないが、今の俺にはそんな彼女を気遣う余裕なんてなかった。

 春日さんを俺だけのものにしたい‥‥少しでも早く頑丈に彼女を囲いこんでしまいたいと思う衝動を抑えるだけで精一杯だった。

「春日さん、好きだよ。嫌われたくはないから絶対に無茶はしないって約束する。でも、こうして気持ちを伝えることくらいは許してもらえたら嬉しい‥‥」

 春日さんは突然の告白に驚きながらも照れているのか、顔を赤くして下を向いたままチラチラとこちらの様子を伺っている。人によってはあざとく思える行為だが、彼女は100%素の状態なのだからたまらない。

「気づいてるとは思うけど、今日はデートのつもりで誘ってる。会社だと距離感が難しいから‥‥俺と過ごす休日は不快だった?」

「いや、そんなことは‥‥なかった‥‥です」

「なら、会社で自制心を保つためにもまた誘っていいかな?」

 これは半分以上脅しだな‥‥と思いつつも背に腹はかえられない。春日さんも同じように感じたのか複雑な表情をしている。

「わかりました。でも本当、会社ではこれまで通りでお願いします」

 俺とのことが社内で噂になるのを警戒してるんだろうか?動揺してるせいかそれ以外のことを気にする余裕がないらしい。だが、俺にとっては都合がいい。

「うーん‥‥春日さんがふたりの時に敬語を使わないでくれたら、俺もオンとオフをうまく切り替えられると思うんだけど?」

「わかった!わかったから!私も気をつける!だから渋谷君も絶対気をつけてね!?」

 俺が調子にのり過ぎたせいで、春日さんが少し厳しい口調で念をおしてくる。

 お互い大人になったこともあり、久し振りに会った春日さんは少し印象が変わったように感じていたが、この会話に懐かしさを憶えた。

 同じクラスになったばかりの頃、俺は春日さんに怒られたことがあった。そしてそれがきっかけで俺は彼女に恋をしたのだ。