「ははは。
 昔の話だよ。

 今はね。
 趣味で将棋をやってるんだ」

「囲碁を極めたからですかっ」
と身を乗り出し、記者は訊く。

 どうもこの明田―― 里村名誉棋聖のファンらしい。

「極められてはいないよ。
 囲碁も将棋も、どちらも人が一生かけても極められるものではないからね。

 だから、私は生まれ変わってもまた、囲碁を打っているだろうと思うね」

 そう明田は言う。

「深い言葉ですね」
と師匠は頷き。

 健は、記者が週間ジャーナルの名前の入ったIDカードをさげているのに気づいて言った。

「……ほんとうですね。
 おかしな週刊誌の記事など吹き飛ぶほどに、いいお話ですね」