「めぐるんのスイーツに惑わされて、スランプを忘れたのだろうか……。

 ……いや、そもそもあいつにとって、スランプとは?」

 ぶつぶつと健がそんなことを言っているところに、おじいさんが屋台で売っている方のめぐるスイーツを手にやってきた。

 囲碁のおじいさん、明田(あきた)だ。

「そういえば、さっきのトーナメント、すごい勝ち残ってましたねー」
と健は笑いかける。

 いやいや、とカップに入ったスイーツを手に明田が言ったとき、記者の腕章をやっている若い男が駆けてきた。

「あのっ、里村名誉棋聖(きせい)ですよねっ? 囲碁のっ」

 えっ? とみんなが振り返る。