「あいつはあれだな。
 勝負をはじめたら、なんでも勝たないと気がすまないやつなんだな」

 スタッフに呼び止められた黒木田と別れて歩きながら、田中は言う。

「なぜ、あなた方は勝負をはじめてしまったんですか……」

「はじめたの、俺じゃないぞ、久門だ」

 頑張ってください、応援してます、と控え室に入る田中に言う。

 遅れて黒木田がやってくるのが見えた。

「めぐるん。
 この対局に勝ったら、結婚してくれ」

「あのー、黒木田さん。
 棋士の方はみなさん、負けん気が強いのかもしれませんが。

 好きでもない女と結婚するのはよくないと思うんですよ」

「好きかどうかはわからないが、お前のことが気になる」