将棋は『にーろくふ』しかわからないのに、田中さんを推しとか言って、いいものだろうか、と思う。

「……お前はラジオに出ても緊張とかしないんだな」

 唐突に田中がそんなことを言い出した。

「あー、ラジオはあんましないですね。
 公開じゃない限り。

 目の前にたくさんお客さんがいらっしゃると、ちょっと緊張しますけど。

 田中さんはテレビでも(よど)みなくしゃべってらっしゃいますよね」

「あれは将棋のことだからだ。
 いきなり他のことを訊かれたら、なんて答えたらいいのかわからなくなって戸惑う」

 そう言い、また渋い顔をする。

 田中さんって、会ってから、真顔か渋い顔しか見てないような。

 でも、なんか田中さんらしいというか。

 これはこれで落ち着くな~、とめぐるは思っていた。