呑み屋の置き看板にぶつかりそうになりながら、めぐるは歩く。

「練習してるんですけどねえ。

 私、自分の名前、下手なんですよ。
 なんかバランスとりづらくって」

「そうか?」
と言ったが、自分にとっては、どれもこれも書きにくい字なので、なんの字ならバランスとれるのかわからなかった。

「山田って字は比較的上手く書けるので、たまに山田さんて人と結婚したくなるんですよね~」

 サインのために!?
 どこの山田と!?

 っていうか、田中も田の字、一緒だぞ。

 いや、どうでもいいんだが、と思いながら、話題を変えるように田中は言った。

「そういや、もう遅いが。
 あの店で、まともなもの食べてないな」