「こっちだ」
と田中が小声でささやき、家と家の間の小さな路地から反対側の道に抜けさせる。

「危ないとこだったな」
「ありがとうございます……」

 ファンの人たちの夢を壊してはいけない、と思っためぐるは、もうここには来れないな、と思う。

「逃亡者になった気持ちです。
 それにしても、田中さん、どうして、そんな小道から」

「いや、いろいろ考え事をしながら、散歩しているうちに、いろんな路地に入り込んで。

 結構面白いから、ずっと狭い路地を選んで歩いてたんだ」

 どうりで、最近、店の前を散歩してないはずだと思った。

 いや、田中さんの姿を探していたわけではないのだが……。