「あいつ、波に乗ってるときは強いんだ」

 忙しげな久門がオムライスを大絶賛して帰ったあと、田中がぼそりぼそりと話しはじめる。

「俺のスランプの原因だ。
 あいつといると集中が乱される。

 この間は目の前にタヌキがいると思おうとして勝ったが」

 何故、タヌキ……とめぐるは思っていたが。

 実はそれはめぐるのおかげだった。

 田中はいつも、なにかソワソワした雰囲気を持つ久門に集中を邪魔されるのだが。

 ふと、心に絶望のタヌキのつるんとした目が浮かんだ。

「なんにも映してないようなお前の黒い瞳を思い出したんだ。
 ゾッとして心が落ち着いた」