「駒の動きって全部覚えてるんですね。
 すごいですね、と言おうとしたんですが。

 田中さんたちにとっては、きっと当たり前のことなので、なにどうでもいいことで褒めてんだ、と逆に怒られるかな~と思ったり」

「いや、別に怒りはしないが。
 棋士なら、大概の奴はできることだからな。

 確かにわざわざ褒められるほどのことでもないな」

 だが、まあ、ありがとう……と言ったあとで、田中が訊いてくる。

「……ところで、田中と呼ばないのか」

「いや、やっぱり、照れるので。
 あ、でも、私はめぐるでいいです」

 ははは、とお盆を抱いて、後退しながら、めぐるは言う。