……あ、勝った。

 スランプなんじゃなかったのか。

 スーツ姿だが、扇子を持っている田中は渋い顔で、閉じた扇子の先をこめかみに何度もこすりつけ、将棋盤を睨んでいる。

 いや、勝ったんだよね?

 勝ち方が気に入らなかったのかな?
と思っている間に、感想戦とやらがはじまった。

 駒を二人で、ぱぱぱっと戻している。

 えーっ。
 今までの流れ、全部覚えてんのっ?

 すごいなっ、
と思ったその日の夜、珍しく田中がひとりで食堂に食べに来た。