「無事に売り切ったな」
閉店後、まだ残ってくれていた田中がホッとしたように言った。
「お前がいろいろ創意工夫したせいだろう」
「……いや」
と姉弟二人は言う。
「田中さんが一緒に売ってくれたからですよ」
いつの間にやら、この店は田中御用達の和菓子屋ということで評判になっていた。
いや、御用達どころか、田中が売り子をしていたのだが。
噂を聞きつけてやってきた人に、
「ねえ、将棋の駒型の和菓子とかないの?」
と言われて、作り足し、
ねりきりを売り尽くそうしていたはずなのに、増産しはじめる、という事態に陥っていた。