走り出した猫を追いかけて来てみれば、行き着いた先はぴたっと門の固く閉じたかつての祖父母の屋敷。
 人手に渡ってどうなったかと心配していたが、思ったほどに荒れた様子はない。
 竹垣が崩れることもなく、雑草も刈っている様子はなかったが、伸び放題でもなく下生え程度。
 それは龍子の記憶にあるかつての光景とさほど変わっておらず。
 数年が経過していることを考えればいささか不自然なのだが、このときの龍子はその奇妙さに気づかなかった。

「あれ~~、一本道なんだけど、おかしいなぁ……。権利者でもないのに、迂闊に他人の敷地に入ると思えないんだけど。社長、猫だったからなぁ」

 三毛猫の姿はどこにも見当たらない。
 猫の侵入がどの程度の罪になるかは相手次第だなぁ……と龍子は難しい顔をして考え込みつつ、門に近づいてみた。
 奥から、かすかに水の流れる音がする。
 懐かしさに、ふっと顔がほころんだ。

(今でも庭の滝とか川はそのままなのかな。もしかして買い主さん、結構まめに手を入れてくれてる? なんだか、どこもかしこも時が止まっているみたいに、そのままだもんなぁ)

 どうにか中の様子も見てみたいな、と門の周りをうろうろしてみたものの、上には身丈が届かない。ならばと、思い切ってしゃがんでみた。
 門扉の下部分と地面の間に、猫なら通り抜けられそうな隙間がある。

(社長、ここから中へ入ったのかな?)

 目の前に。
 草履を履いた足が見えた。
 位置的に顔は見えない。ただ、龍子の視線の先のごく近いところに、袴の裾と足袋を履いた草履の足元が見えたのだ。