「…どうかしましたか?私、お名前間違えました?」


「ううん、合ってる。あなたをどこかで見たことあった気がして」


「学校の廊下で、すれ違ってるのかもしれないですね」


「うん…、そうね。変なこと言って、ごめんなさい」




腑に落ちないような表情だったけど、学校内は大勢の生徒と先生が行き交うから、どこかですれ違っていても覚えていられないもの。


向井さんの記憶も、私じゃない誰かと混ざっているのかもしれない。



ふわっと柔らかく微笑むと、向井さんは小さく会釈をして図書室を出て行った。