朔が泣いた。声を上げることなく、喉の奥に押し込むように。


でも涙は溢れてきていて、頬から落ちる前に手の甲で大雑把に拭き取ると、鼻を啜っている。




体の中から湧き出る感情に、蓋をする必要はないのに。


朔に睨まれたことで引っ込めた手を、また背中に当てて優しく摩った。




「忘れなくて良いんじゃないかな?元カノさんのこと大好きだったんなら、それは覚えておいた方が、天国でも喜んでもらえるだろうし。それに、自分が死なせたって悲しんでほしいわけじゃないと思うよ。私が元カノさんだったら、ずっと笑って私の分まで幸せに生きてほしいって思うかも」