圧倒されて考える間もなく、気づくと受け取っていた。

「迷惑料もあとから送らせます」

 警備員に促されて、悔しげに顔を歪めた湖山麗華は、くるっと背中を向ける。

 その背中に燎さんは言った。

「ああ、それから麗華。今のお前の行動は録画したからな」

 燎さんが合図をすると、店内にいた女性と男性がスマートフォンやカメラと思われるものを掲げる。

「一部始終を撮ってあります」と男性が言い、制服の警備員の隣に並んだ。

 悔しげに唇噛んだ湖山麗華は、わっと泣き出した。



 湖山麗華がグラスを投げて、燎さんに連れられて車に乗るまで、時間で言えば十分程か。

 フェリーチェは平常を取り戻し、警備員が、カチャカチャと音を立てながら割れたガラスの片付けをしてくれている。

『これも仕事のうちですから』と、引き受けてくれたのだ。

 まるで、突然の嵐に襲われたよう。

 燎さんは帰り際に、大切なグラスを割らせてしまったと謝ってくれた。その気持ちだけで十分だ。

 事情は紗空が話してくれた。