私はお花も生けられなかったし、お抹茶の飲み方もわからなくて。

『仕方がないから、私が躾けてやる。教養がないなら働くんだよ!』

 それからは毎日、学校にいる時間以外はずっと家で働いた。長い廊下の雑巾掛け、トイレ掃除。妹と弟ができてからは子守り。和菓子屋の朝は早いから、私は四時に起きてご飯を炊いて――。

『のろま! クズ!』

 出産し家に帰ってきた母が止めに入ると、おばあさまは激高した。

 乳飲み子を抱え、店にも立った母も大変だった。母には身寄りがなかったから、離婚する選択はなかったのだ。

 資産家の家というと、どうしてもあの六年間の記憶が脳裏をかすめる。

 おばあさまは私が大学一年のときに亡くなったが、今でも、ほんのときどきだが、夢に出てきてうなされるのだ。

 大空と翔真はまだ小さいから間に合うだろうか。私のせいで子どもたちが苦労したりしないのかな。

 航輝さんは優しいから守ってくれると思う。

 本当に優しい人だから、私が困っていないかと気にかけて――。