確か高翼の大型輸送機だった。およめさんになると騒いでいる彼女を尻目に、俺は空を見上げていたのだ。

 あのとき、はっきり嫌だと言っておけばよかったのか。十歳の自分を振り返り、それは無理だとため息が漏れた。結婚などまるで関心がなかったのだから。

 通りにタクシーが停まり、若い女性が降る。

 湖山麗華だ。身長は一六五センチくらいか、茉莉よりも少し高い。痩せぎすの体をブランド物で包んでいる。

 彼女はただの一度も働いた経験はなく、かといって習い事も続かない。親の庇護がなかったら一日たりとも生きていけない人形のような女。

「お待たせ」

 麗華はにっこりと笑みを浮かべる。

 令嬢らしくゆっくりと腰を下ろした彼女は、ごく一般的に見れば美人だ。家柄もいいし、縁談には困らないだろう。内面的に問題はあったとしても、それはごく一部しか知らないだろうし。

 俺に固執する理由はないばず。

「久しぶりね。ずっと連絡くれないから心配していたのよ」

 前回会ったのはひと月前か。